Anime Quester

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現役20年のアニメーターが斬る!(後編) アニメーターと報酬の実態

 業界歴20年のフリーアニメーターさんへのインタビュー第2段。続いてのテーマは「賃金」です。「アニメーターは、薄給なのに仕事に追われるブラックな職業だ!」ということは、巷で言われておりますが、その実情はいかなるものなのでしょうか。

※以下凡例:アニメーターさん「A」、タックマン「タ」

 

■アニメーターはなぜ、仕事をしないでスプラトゥーンをするのか?

タ:アニメーターって、良く言えば職人堅気というか、癖の強い人が多そうですよね。以前、とある制作進行の方にお話を伺う機会があり、その時ビックリしたのが、アニメーターに催促の電話をかけた時に「今やってます、もうすぐ終わらせますから!」という返事の裏で、あからさまにスプラトゥーンの音楽が流れてたっていうエピソードでした。「そんな『SHIROBAKO』にありそうな出来事が日常茶飯事なのか!」と驚きました。どうして、こんなことが起きるのでしょうか?

A:端的に、仕事をしないことに対してのペナルティが無いからです。怒られないし、報酬も下げられないから。何かをやらかしたら信用は失うけど、信用を失ったところで、仕事は山ほどあるんです。よく、「アニメーターは、人を殺しても仕事がなくならない」って言われます。人殺しって、社会で最も信用を失う行為の1つだけど、それをしても仕事できてしまうってことですね。先ほどの軽犯罪をやってしまった人(※)だって、業界内ではかなり知れ渡ってますが、普通に仕事ありますから。
タ:そんなに、人が足りていないんですか?

※詳しくインタビュー第1弾をご覧ください。

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■「アニメーターには、プロアニメーターとアマチュアアニメーターの2種類がいる」

A:厳密に言えば、アニメーターは、実は相容れない2つの階層に分かれています。プロアニメーターと、アマチュアアニメーターです。で、プロは超足りていませんが、アマチュアの方は、足りていないけど担当を引き上げるほどではない、という状況です。プロアニメーターの単価は近年徐々に上がっています。なぜなら「この人でなければ出来ない」っていう仕事を引き受けるからですね。対して、アマチュアアニメーターは作画監督が絵を直さずにそれが直にオンエアーに出てしまうと作画崩壊と言われるレベルの人たちがゴロゴロいます。でもなぜそんなアマチュアアニメーターにも仕事が行くのかというと、アニメの制作過程では声優がアフレコで声をつけるための映像が必要になります。しかし、殆どのアニメでアフレコの日までに映像が完成していないため、声優さんは制作途中の仮映像を見ながら芝居をします。この仮の素材でも完成度に段階があり、一番良いのは色の付いた完成映像でその次が色の付いてない原画を繋ぎ合わせた動きがカクカクした状態の原画撮影素材。そこから更にレイアウト撮影素材、絵コンテ撮影素材とどんどん未完成な状態の映像になってゆき、最終的にはセリフ以外の情報が無い真っ白な画面に演技をする所まで行きます。
 実はこの仮素材を作るためににアマチュアアニメーターの力が欠かせないんです。
 オンエアーに乗る絵の状態になるのは原画撮影素材からなのですが、昨今のテレビシリーズでアフレコ時に最も多いのがレイアウト撮影素材状態の映像です。アフレコ時に使用される映像は表には出ないので、ここに大量のアマチュアアニメーターが投入されます。
 プロアニメーターだけでアニメを作れていれば何てことは無いのですが、昨今のアニメの制作本数ではプロアニメーターの手だけでは全然足りません。プロアニメーターだけでアニメを作っていては、殆どのテレビアニメのアフレコ日には棒人間が闊歩する絵コンテを繋ぎ合わせた絵コンテ撮影素材しか用意出来ません。そこでキャラの顔が別人だろうが、人が地面に斜めに立っていようがアフレコ時に必要な情報量が少しでも多いレイアウト素材をアマチュアアニメーターに描いてもらうのです。
 ただしこれらの絵はアフレコ後数か月を使って作画監督がほぼ全てを描き直すため、視聴者からはどのアニメーターがプロでどのアニメーターがアマチュアなのかが判別できない状態にあります。
 こういった構造がある以上、アマチュアアニメーターはダミー素材として使えるレベルの絵を描けばいいので、ぶっちゃけた話、海外に発注するのとあまり変わらないんですね。最近なんかは、日本のアニメーターに下手に仕事を出すよりも、中国や韓国の会社に時間を与えてお任せする方が良いモノが上がってきたりもします。

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タ:軽犯罪をした人は、どっちだったんですか?
A:あの方は一応「プロ」に入りますね。だから仕事があります。
タ:人手不足が深刻になったのは、いつ頃からなのでしょうか。
A:昔から人は足りていなかったですね。ただ、昔はプロクリエイターだけで作品を作っていたんです。
タ:昔っていつ頃ですか?
A:90年代までですね。あの頃は、アニメの本数が少なかった代りに、1個1個の作品の質は高かったです。
タ:そういえば、めちゃめちゃハイクオリティのOVAとかありますもんね。
A:そうそう。OVAだけでなく、例えばTVアニメのオープニングも、今のようにCGがないにも関わらず、とてもカッコいいものが、山のようにありました。

 

■「プロとアマチュアの分業体制」で成り立つアニメ制作

A:セルからデジタルに変わった2000年代の頭から、アニメバブルで一気にタイトル本数が増えて、そこから今の今まで本数は増えています。ここから数字は仮のもので話しますが、業界に1,000人のプロアニメーターがいたとして、1,000人のプロアニメーターが1年で作れる本数が100本だとすると、2010年以降は250本作らされるようになった。しかし、1,000人のプロアニメーターの人数が、2.5倍になることはないんです。プロになるには、絵のセンスに加え、業界で何年も修行しなくてはいけませんから。そこで人手を補うために出てきたのが、アマチュアアニメーターなんです。
タ:へぇ。
A:以前は、プロが1から10まで描いていたのですが、今はアマチュアアニメーターが1から6まで描き、プロアニメーターが7から10までのクオリティアップをする、という分業体制でやっているのが、今の業界ですね。そして、残酷なことを言ってしまえば、6までしかできない人は正規のプロではないので、プロ並みの報酬は支払われません。それが、「アニメーターの単価が安い」と言われている根源です。逆に、プロアニメーターについては、技術の腕が同じだとしても、90年代より今の方が稼いでいますよ。作品量の増加にともなう需給バランスの崩れで、より報酬が高くなっています。
タ:そうなんですね。逆に言えば、アマチュアの力を動員しつつ生産量を増やせる体制ができたというのは、良いことなのでは?
A:いえ、悪いことだと思います。アマチュアアニメーターの人たちが、アマチュアであることを自覚して、「俺たちはプロアニメーターの仕事を支えるバイト集団だ」くらいに思っていればいいのですが、彼らは彼らで「俺たちはプロクリエイターだ」と思っているので、不幸が生まれています。安い単価から90年代以上の高い報酬まで差があるのは、あくまで需要と供給の曲線が交差した、極めて合理的な現象です。だからアニメ業界の環境改善に関して、会社の経営者だったりプロデューサーといった責任を持っている個人が、救済に対するコメントを出さないのです。救済方法は採っているけど、アニメーター自身が義務を果たさないことが多いんですから。実は「低賃金問題に関してアニメ業界には悪者はいない」というのが、私の結論ですね。

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■「放送落ち」はなぜ起きるのか

A:さらに言えば、今では飽和状態が続いて、プロアニメ―ターによる最後の仕上げが間に合わないことが多発しています。それが、作画崩壊だったり、放送が落ちたり、放送が延期になるっていう事象です。
タ:「放送が落ちる」って、アニメファンは大好きな話題ですよね。
A:「放送落ち」って、言葉こそはありますが、2010年くらいまでは正直そんなに無かったと思います。それが、今では毎クール何かしら起きている。もっと言えば、アニメの製作委員会には、納品されたフィルムに対し「納品拒否」を出すことができます。あまりに出来が悪い映像に対し会社間で時間と予算を了解のもと発注契約を交わしたのに、この出来はあまりにも酷いのではないか!といった事ですね。アニメの制作を依頼した側からすると、一度OKを出して納品された映像に関して、オンエアー後のリテイクで絵を直すという行為は本来は「納品済みの映像の修正をお願いする再発注」という形になってしまい、時間もお金も追加でかかるので、なるべくやりたくないんですね。だから最初の納品時に、クオリティをチェックするんです。……と言っていたのが、今は納品を拒否している場合ではないので、放送してしまいます。逆説的に、納品拒否って最近あまり聞かないですよ。
タ:へー!
A:完全に、スケジュールとクオリティコントロールができていないのが現状です。

 

■最後に辛辣な一言

A:この業界で20年働いてきて思うのですが、アニメーターって「アニメーターになれた人が、アニメーターになった」という自由選択ではなく、「アニメーターにしかなれない人が、アニメーターになった」という消去法的な場合が多く存在していると感じています。
社会人としての最低限の作法、例えば「ほう・れん・そう」がきちんと出来るというアニメーターはかなり少ないですし、アニメファンからすると尊敬するアニメーター様的な色眼鏡でアニメーターを過大評価しがちですが、Twitterをちょっと探すと制作進行が作ったと思われる愚痴アカウントが沢山存在し、それらのアカウントからはアニメーターを呪う言葉が沢山つづられています。
 私もアニメーターの粗暴な振る舞いをこれまで沢山見てきたので、そういった制作進行の気持ちには強く共感します。そのうちアニメーターを刺し殺す制作進行が出そうとよく冗談交じりで言われますが、正直今日それが起こっても違和感は感じない位アニメーターに虐げられている制作進行は沢山います。
 こう言うと怒られそうですが、労働者として、例えば普通の飲食店のアルバイトですらできないような労働意識の人間が、「たまたま絵が描ける」「どうせ他の仕事も手につかないから食えなくてもアニメーターをやりたい」という理由でこの業界に席を置き続ける人が業界には相当数いるのでは。そういう人たちの中で、絵が上手く、社会人として当たり前のことを当たり前に実行できる人は、きっと一瞬で上に行き、例えば「家を建てるし車も持つし結婚するし子どもも出来るし」という人生を送れますよ。(終)

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いかがでしたでしょうか。最後は辛辣な業界批判へ着地しつつ、アニメ業界を多様な視点で考える有益なヒントを頂きました。インタビューに応じて頂きました、冷静な現状分析と確かな技術で次々とステップアップされているアニメーターさんの、今後の作品が楽しみです。